霊泉寺温泉(4) 遊楽・夕朝食編
霊泉寺温泉を出て、国道254号線を道なりに進む。上信越自動車道に乗る前に「道と川の駅 おとぎの里」で一休みすることにした。

前日も『道の駅 雷電くるみの里』でランチをとったあと、この「おとぎの里」には立ち寄ってはいたものの、見るものは少ない。馬鹿バーガーが売りという話だが、食事をとれるスペースは閑散としている一方、駐車場にはそこそこ車が停まっているのが不思議ではある。
上田市にはほとんど雪もなかったが、前日は佐久から下道を使って上田入りをしたので、車は雪まみれで汚れている。『遊楽』の女将さんの話だと、春近くになると、佐久の方で雪が降るという。

長野ICを降りると、善光寺までは車で30分ほどだろうか。以前はセントラルパークにそこそこの広さの駐車場があり、そこに停めて歩いていたのだが、いまは小綺麗に整備され公園になっている。この駐車場がなくなったあとは『表参道もんぜん駐車場』に停めて、『もりたろう』でランチをとり、駐車場の割引を受けるというのが定番だった。しかし、前回立ち寄ったときには以前の味とはまったく違っていたのにがっかりしたので、今回はランチはとらずそのまま帰ることに決めて、『遊楽』の朝食では白米をおかわりして備えている。

というわけで、今回は『システムパーク西後町 駐車場』に停めて少しだけ歩くことにした。すぐ隣には北野文芸座があり、歩道の端にも雪がまとめられている。いつもであれば吹きつける北風に身震いしながら門前まで歩いたものだけど、幸いこの日は快晴で、屋根に雪を湛えた街並みが陽光にひどく眩しい。

平日の金曜日だが、そこそこ観光客らしき姿はあって、なかでも驚いたのが、仁王門を入ったところでけたたましい中国語が聞こえてきたことだった。三人の青年があれこれ言いながらスマホで記念写真を撮っている。いまは入国も禁止されているはずだから、在住者で長野に観光で訪れたのだろう。それにしても日本人の参拝客たちがいちように感染対策を意識してか声をあげずに黙々と歩いているところへ、衒いもなく大声をあげているさまには違和感がある。

もっとも数年前に訪れたときには、仲見世通りにも外国人の姿がごく自然に溶け込んでい、――それを当たり前のものとして受け入れていたわけで、2020年からの心のなかの変わりようを思うにつけ、いったいどちらが「普通」なのかと考えてしまう。インバウンドで湧く観光地の方が「正しい」姿なのか、それともいまは「普通」に戻っただけなのか、どうか――。

早々にだるまを納めて、新しいものに取り替える。大香炉には数人のひとがいたが、おとなしく後ろに並んで線香をあげる。以前はみなが銘々香炉に群がっていたものだが、2020年からこっち、社会的距離をとって次を待つのが暗黙のルールになっている。たしか昨年はおとなしく並んでいたところを横入りされ、本堂に入るまで腹を立てていたことを思い出す。

これから参拝するのに苛立ちが胸に騒立つというのは、けっして褒められたものではない。自分の短期を思うにつけ、まだまだだな、と思う。本堂はなかなかの賑わいだったが、いまは感染対策でおびんずる様を撫でることもままならない。

そのまま素通りして、賽銭箱に小銭を投じ、般若心経を唱える。こうしているあいだにも、後ろからひっきりなしに参拝客がやってきて、どうにも落ち着かない。

大勧進も参拝客で賑わっていたので、ここは不動明王の真言を軽く唱えて退出する。以前はのんびりしたもので、誰もいないのをいいことに靴を脱いで本尊をまじまじと眺めたりできたのだけど、ここ最近はそんなこともできなくなってしまった。

どうも気持ちが落ち着かず、小さな棘のような苛立ちにとらわれたまま、大勧進を出ようとしたところで、稲荷社がふと眼にとまった。幸い誰もいないので、稲荷秘文を低い声で唱えていると、にゃあというか細い猫の鳴き声がどこかでする。

足許を見ても猫の姿などなく、いったいどこにと思ってそばにある樹を見ると、茶トラの猫が枝にうずくまっている。後ろから猫の名を呼びながら老婦人がやってくると、猫はしきりに鳴きながら、すいすいと稲荷社の建物を器用に伝って地面に降りてくる。地元の通い猫なのだろう。

帰りに「桜枝町太平堂」でパンを買い、「八幡屋礒五郎」を軽くひやかしたあとは、駐車場までのんびりと歩く。長野市といい、上田といい、正直、観光地はあらかたまわってしまったので、参拝を済ませたあとまたどこかに立ち寄るつもりもない。今回はご開帳で大賑わいとなる前に、善光寺だるまを新しいものと取り替えるのが目的だったので、このまま帰ることにする。

往復で593.7kmほど。いわきに行くことを考えれば中距離旅行といったところか。プリウスPHVの燃費は35.5km/Lだった。
0 comments on “[2022-02-19]霊泉寺温泉(5)番外編 長野善光寺”