霊泉寺温泉(1) 遊楽・部屋編
福乃間から廊下に出ると、すぐ右手に洗面所がある。蛇口が二つあり、給湯器が据えつけられたいかにも昔懐かしいつくりのもので、足許にはたこ足から伸びた電源タップが無造作に転がしてある。

この洗面所の向こうにある階段を下ると、れいの食堂に出るのだが、部屋に案内されたときにはこちらではなく、部屋を出てまっすぐのところにある階段だったので、浴室に行くにもこちらを使うことにした。

階段のそばは一段低くなっていて、ソファとテーブルに、ウォーターサーバーがある。テーブルの下には囲碁がしまわれているので、さしずめ昔の宿によくある談話室のようなスペースなのだろうか。滞在中はもっぱら温泉に入って食事をし、部屋で寝るだけだったのでここのソファで寛ぐことはなかったのだけれど――。

男子浴室の奥にも休憩所あって、ここにもウォーターサーバーが置かれている。

浴室はふたつあり、自分たちが使ったのはこの男子浴室だけとなった。小さい方はドアを開けて覗いてはみたものの、ひとりで入るのがやっとという狭さだったので今回は遠慮しておく。

広い方の浴室にある脱衣所は奥行きがあり、ドライヤーを使うためのコンセントもある。また少しおどろいたのは、換えのタオルが重ねて置かれていたことで、アメニティに不満はない。もっとも自分たちはタオルも持参だったので、こちらも使うことはなかったのだが、身軽で訪れた宿泊客には喜ばれるのではないか。

さて、浴室は大きな窓からの採光もよく、少し開けるとせせらぎからの音が聞こえてくる。その向こうには雪をまとった急峻な山が迫り、この季節ならではの景色を味わうことができた。

氷柱の貼りついた網戸越しに冷たい風が吹き込んでくる。泉質はさらっとした感じで、癖はない。楽天トラベルのお客様の声だったかには、やや硫黄臭があるように書かれていたが、別所温泉や田沢温泉に較べるとそうした臭いはまったくないといっていい。もちろん季節もあるだろうから、一度訪れただけで断言はできないのだが。
癖がないといっても、それが効能とまったく関係ないことは言うまでもなく、極上のぬる湯ということも相まって、30分ほどのんびりして湯船から上がると、胸の動悸がどっどっと耳につき、軽い眩暈に思わずよろめいた。完全に湯あたりである。この感覚は、以前に日の出町の日帰り温泉「生涯青春の湯 つるつる温泉」以来だろうか。
ぬる湯だからといって安心はできない。成分はかなり濃厚なのかもしれないと思い直し、ここは腰を据えて、――というと大袈裟だが、少しずつ湯に馴れるよう、慎重に出入りを繰り返す。1時間ほどして湯から上がると眩暈もなく、心なしか身体が軽くなったような気がする。たしかこの霊泉寺温泉はPH値が高いはずだが、七沢温泉や玉山温泉のような、肌にまとわりつくような感じはない。とはいえ、こうして数日経ってからも肌艶はしっかり保たれたままなので、アトピーにも効くという肌への効能もきっとあるに違いない。
夕食までまだ少し時間があるが、初めての温泉でいたずらに長湯をするのもまずかろうと思い、しばらく部屋で休んでから外を散歩してみることにする。
(続く)
霊泉寺温泉(3) 遊楽・温泉街編
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