[2022-03-11] 山梨県芦安温泉 なとり屋(6) 浴室編
温泉からあがると、夕食までまだ時間があるので、宿の周辺を散策する。散策と言っても、芦安は温泉街と違って、川のこちら側と向こう側に宿が点在しているだけだから、有名温泉街のような華やかさはない。

シーズン中には多くの登山客が訪れ、コロナ禍前には、小学校から夜叉神峠の入口までバスが走り、狭い道は車でごった返したという話を、以前にペンションの奥さんから聞いたことがある。コロナ禍以降はその様子も大きく変わったに違いないが、まだオフシーズンの今は観光客らしい姿はない。いや、そもそも道を歩いていても人がいないのだ。

宿の前の道を少し下ると、いくつかの民家が軒を低くして建ち並んでいる。だが眼をこらすと、人が住んでいるけはいのない家もいくつかあるようで、ハイカーたちで潤った往事はさぞかし賑わったであろうこのあたりも、いまはどこにでもある寂れた観光地と変わりはない。

宿に戻り、夕食時間の6時になったので一階に降りる。席の向こうに衝立があり、テーブルがあったが、もう一組は隣の部屋で、ということになっているらしい。
小食の自分たちが選んだリーズナブルコースは、馬刺しとデザートがついていないものの、他はスタンダードと変わりない。馬刺しはすでに会津でも長野でも食べているし、それほど大好物というわけでもないので、むしろこの日の夕食で愉しみにしているのは、鳥もつ煮と蕎麦だった。

料理は順に運ばれてくる。着座したときは香の物と前菜の皿だけが盆の上に載せられていた。生ハムに、チーズとトマトを和えたグラスなどは洋風な感じがする。

次に運ばれてきたのがアマゴの塩焼きで、柑橘が添えられていた。

続いて鍋が運ばれてくる。豚肉に豆腐や野菜を添えた鍋に続いて、鳥もつ煮が盆の隣に置かれる。

サラダがもつ煮の下に敷かれてあるところも奥藤と同じだ。

粗塩とわさびを添えた蕎麦刺しはあまり食べたことがない。

天麩羅はできたてで、このあたりは若旦那のこだわりが感じられる。かりっと仕上がっていて食感もいい。

やはり若いご主人が奥藤で修行したというだけあって、天麩羅のあげかたも抜かりないと感じた。


蕎麦が運ばれてきたところで、しばらくご主人と話をする。『ゆるキャン△』にも芦安が登場するので、これにあやかって色々と考えている、ということや、富士山に次いで二番目に高い北岳に絡めて、全国の二番を集めた企画をネットで催したり――。なかなか面白いと感じたが、かといって芦安は歴史ある下部と違って情緒も薄く、石和温泉ほど昭和に振り切った猥雑さもない。これでも泉質がずば抜けて個性的であれば、温泉通にアピールできるのかもしれないが、こちらも奈良田温泉のようでもない。どうもこれ、と推せるものが弱いのだ。
こちらから温泉むすめの話題を持ち出したりして、ひとしきり福島の飯坂温泉やいわき湯本温泉について話をする。芦安には虎御前という温泉むすめにうってつけな逸話もあるのだし、悪くないとは思うものの、温泉街ではないゆえ町をあげて盛り上げていこうという気概がない。このなとり屋のご主人と、昨年泊まったペンションの夫婦がもっぱら若者世代の代表として芦安温泉を盛り上げていくべく奮闘しているという話だが、ここでも『ゆるキャン△』で盛り上がる下部との違いをありありと感じた。やはり登山客がメインターゲットである限り、別のアプローチをはかるのは難しいような気がするのは自分だけだろうか。
ご主人との話が盛り上がるうち、すっかり蕎麦がのびてしまった。夕食を終えると隣の組みはまだ食事の最中らしい。このあいだにまた温泉に入ることにする。
(続く)
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