[2022-03-11] 山梨県芦安温泉 なとり屋(4) 大石公園
芦安温泉は昨年、「なとり屋」からさらに山を登ったところにあるペンション『静かな森の温泉隠れ宿 そらの詩』を利用したことがある。若夫婦のセンス溢れる部屋のデザインや調度品も素晴らしく、とても寛げる宿だった。ただ夕食のボリュームが半端ではなく、この『そらの詩』は二度宿泊したものの、芦安温泉にもう一度泊まるのであれば、次はもう少し夕食が少なめの宿にしようと決めていた。

しかし芦安温泉の宿の利用者は、楽天トラベルのお客様の声を見る限り登山客がほとんどらしく、いずれの宿も食べきれないくらいの夕食を出すらしい。そんななか、夕食少なめのコースがある「なとり屋」は、『甲州流手打ち蕎麦「竜王奥藤第五分店」で12年間修行した三代目』の料理が売りで、【リーズナブル】コースでも、夕食には「奥藤」のタレを用いた鳥もつ煮が食べられるとある。
「奥藤」の鳥もつ煮は、第五分店ではなく、国母の店で何度か食べたことがある。道の駅や河口湖の食事処などでも鳥もつ煮は食べたことがあるが、やはり「奥藤」のそれは別格で、蕎麦と合う。

宿に着き、建物の隣に車を停めて扉を開けようとするも鍵がかかっている。隣は食事処となっているらしく、そちらの扉も試したものの、やはり開かない。仕方なく宿の入口に戻って呼び鈴を押すと、奥から女将と思しき女性がやってきた。入って下さい、と手で示すものの、こちらは鍵がかかっていて開かないのだ。ドアノブのあたりを指さして開かない、というジェスチャーで示すとようやく気がついてくれたらしい。

とりあえず中に入れてもらい、靴を脱いであがると、夕食はこちら、風呂はこちら、と手際よく館内の説明をしてくれる女将は、しかしどこかこちらを警戒しているような気配が感じられる。初めての客だからかと思うものの、階段を上がって案内された部屋は、いかにもハイカー向けの、広縁もない素っ気なさだった。

窓際には炬燵があり、すでに布団は敷かれている。いささか戸惑ったのが部屋のそこかしこにいるてんとう虫で、布団の上、窓際、畳の上と一匹、二匹――仕方なくティッシュでつまんで外に出すのだが、また一匹見つけてはの繰り返しである。てんとう虫をつまんだティッシュを捨てようとして気がついたのだが、ゴミ箱には前泊者のものが使ったと思しきゴミがそのままになっている。これはいけない。

幸いゴミ箱にはビニール袋がかぶせてあったので、そのままトイレ近くの洗面所まで持っていき、大きなゴミ箱に捨てた。本当はビニール袋ごと捨てたかったのだが、あいにく替えの袋を持ってきていない。これはそのまま使うことにする。
窓の外に車が停まった気配がして障子を開けると、自分の車の隣にBMWが横付けにされている。ドアが開くと出てきたのは、自分たちよりやや年下と思しき夫婦で、鞄を手にしているところを見ると泊まり客らしい。
そうこうしているうちにお茶を持って女将が戻ってきたので、話を聞く。案の定、この日はもう一組宿泊者がいるとのことで、とりあえず風呂の入る時間を決めてもらいたいという。四時まであと少しというところだったので、ひとまず四時から一時間の予約をしてもらう。このあとはいつでも入浴可能だという話だったので、あと数十分は部屋で過ごすことにする。

館内は民宿旅館というわりには清潔で、トイレは各部屋ごとに個室が用意され、洗面所にも部屋番号が記されている。便座は人感センサーで蓋が開くようになっていた。このあたりは若いご主人が大胆にリフォームしたという話を翌日の朝食のときに聞いた。


トイレに行く曲がり角には本棚があり、しっかり『ゆるキャン△』が揃えてある。『ゆるキャン△』と言えば身延町の印象が強く、実際その通りらしいのだが――自分は原作漫画を読んだこともなく、またアニメもドラマも見たことがない――芦安は主人公たちが道に迷ったあげくに辿り着いた場所ということで登場するらしい。

館内の写真をある程度撮り終えてから部屋に戻ると、また畳を数匹のてんとう虫が這っている。自分はどんな虫でも殺さないと固く心に決めているので、またティッシュをとって窓の外に放してやった。そんなことを繰り返しているうち、予約の時間になったので、さっそく部屋着に着替えて一階の浴室へ行ってみることにする。
(続く)
[2022-03-11] 山梨県芦安温泉 なとり屋(6) 浴室編
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