[2022-02-18]霊泉寺温泉(3) 遊楽・温泉街編
お客様の声やネットの評価を見ると、この宿は食事の評価がすこぶる高い。量はほどほどで、大食漢には物足りないのではと感じられるものの、小食の自分にはちょうど良かった。



安宿らしからぬ献立で、ローストビーフに加えて、サラダにはサーモンとアボカドが添えられている。洋風の一品を出すところなど、以前に繁く通った田沢温泉の『富士屋』を思い出した。


そして白米ではなくお赤飯というのも珍しい。ネットでの評判を読むと、秋にはこれが松茸ご飯になるという話だが、常連客か季節を変えてまた訪れたくなるというのも納得ではある。



朝食は定番の鮭だったが、食後にデザートの苺と珈琲が出るのが嬉しい。苺には練乳がかけてあり、珈琲は食べ終えたころを見計らって女将さんが運んできてくれる。


厨房はこの入口を入った食堂のすぐ裏にあり、ふだんから女将さんはここにいるように感じられた。ランチは「道の駅雷電くるみの里」でカツ定食を食べてしまい、空腹にならないまま夕食に挑んだため、赤飯を残してしまったのだが、食後にまた一風呂浴びようと階段を降りたところで、後ろ背に女将さんから声をかけられた。

いったいどこにいたのかという感じですっと音もなく姿を見せ、声をかけられたものだから、思わず「うわっ」と小さな声をあげてしまった。見ると、パックに詰めたお赤飯を手にしている。「これ、よかったら」というので、残してしまったことを申し訳なく思いながら受け取った。

この赤飯は、翌日家に帰ってからレンジで温めて美味しくいただいた。こういうささやかな気遣いが常連客を増やしているのだろうな、と思う。そういえば夕食後に温泉からあがると、またふらりと女将さんがれいの厨房から現れ、「これ」と湯たんぽを渡された。かなり大ぶりの、おそらくはトタンかブリキでできたそれは、タオル地の布にくるまれてずっしりと重い。朝までずっと暖かく、そういえば子どものころは朝起きるとこのお湯を使って顔を洗ったっけ、と昔を思い出す。

夕食後にもう一度、そして朝は六時からと、朝食後にもう一度で、温泉に入ったのは計四回。部屋にいたのは食事と寝るときだけで、滞在中はほぼ温泉に浸かっていたことになる。ただ前にも書いた通り、あまりにあっさりとした泉質に感動は薄く、翌日になっても「効いた」という気はしない。とはいえ実を言うと、帰宅してから二日ほどは妙に胸が重く感じられ、すぐさま最初に入ったときのふらつきを思い出した。もしかしたら湯あたりでは、と考える。それだけ「濃い」温泉だとすると――あくまで自分だけの話だが、ここ霊泉寺温泉に関して長湯は禁物ということになるのだろうか。

そういえば以前は繁く通った田沢温泉も、翌日に頭が重く感じられたことを思い出す。今回の霊泉寺温泉ほど長湯を決めていたわけではなかったけれど、どうもこの周辺の湯はあまり自分には向かないのではないか、という気もしてくる。

逆に見れば、それだけ効能が強い温泉ともいえるわけで、長湯はせずうまく浸かれば即効性を期待できるともいえるわけで、このあたりは試してみないと判らない。
宿を出るときに、あまり話をしなかった女将さんの方から「これからどちらへ?」と訊かれ、善光寺に、と応える。そこから妙に話がはずみ、以前は田沢温泉に通っていたことなど、この周辺の温泉の話題になった。県外者ではじめての客ということもあり、こちらから敢えて話しかけることはしなかったのだけれど、思いのほか話し好きの女将さんでほっとする。
このご時世だからと、初めての宿ではつとめてこちらから話しかけないようにと心がけてはいるものの、やはり地元の話は色々と聞いてみたいもので、自分がこの宿を知ったきっかけとして『基本安宿を巡るカブ』さんのブログのことを口にすると、女将さんは気さくに笑いながら、この宿は常連客が多いから、といい、実際あのブログをきっかけにこの宿を訪れるものも少なくないという。
挨拶をすませて宿を出ると、奥に続く霊泉寺温泉の通りを眺めてみるが人の姿はない。ただこの時間が止まったかのような鄙びた雰囲気が多くの常連客を惹きつけるのだろう。無料駐車場に一晩停めておいた車のフロントガラスには霜が降り、夜の寒さがうかがわれた。暖機をしているうちようやく視界が開けてきたので、車の鼻先を道に向ける。
(続く)
[2022-02-19]霊泉寺温泉(5)番外編 長野善光寺
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