[2022-02-04] 湯河原温泉(3) 伊藤屋・客室と浴場編
この宿の夕食はまず何よりも量がほどほどで、先付から椀物まで丁寧に仕上げた逸品を堪能できるのが素晴らしいのだ。今回は月初めということもあって、ちょうど先月訪れたときと同様の品書きだったらしく、板長が特別に別のものに換えてくれたらしい。なので品書きがない。器に盛られた鮮魚四点盛の造りは定番のマグロに寒ブリ、イカに海老。そして前菜はサザエに素揚げの海老に加えて、梅を添えた豚肉というのが珍しい。このごま豆腐の味付けも初めて食べたような気がする。

台の物が先月は金目鯛の鍋野菜だったのが今回は浅蜊で、これもまた初めてだった。この宿の台の物でベストは昨年の十二月に食べた藤村鍋なのだが、もっともこれは季節限定で、希望すればというわけにはいかないらしい。この宿に逗留していた島崎藤村が好んで注文していたものという話で、ロビーに展示された昔の宿帳にも、たしか彼が注文した鶏鍋の記載があったように記憶している。







今回は生姜煮を添えた焼き物が出てきたところで白米をお願いした。鍋ができるのを待っているうちに焼き物の魚をつまみながら白米を食べていると、ちょうどいい頃合いで浅蜊の鍋ができあがる。


台の物は海鮮より肉の方が好みで、上にあげた藤村鍋に加えて、十月の牛鍋も忘れがたい。今回は海鮮か、とやや落胆したものの、実際に食べてみると、金目鯛よりもコクのある味付けで満足できた。



鯖の南蛮漬けは胡瓜が添えてある。胡瓜は唯一の苦手な食べ物で、これだけは残してしまう。

この宿の控えめな量の天麩羅も、後半に出てくる一品として相応しい。
白米は一杯だけおかわりして完食する。道の駅でランチにと丼一杯に盛られた白米とともに唐揚げを平らげても入るだけの品数で、やはりいまの自分にはこのくらいの量が適当だと感じる。

夕食を終えてフロントに電話を入れると、すぐに仲居さんと番頭さんがやってくる。布団を敷いているあいだ、デザートを広縁で食べる。今回のデザートはアイスだったが、この宿のデザートは自家製のフルーツ・ゼリーかアイスのいずれかで、先月はたしか蜜柑のゼリーだった。個人的にはゼリーの方が好みではある。
他の宿泊客はまだ食事中らしく、四つある浴室はすべて空きになっていた。迷うことなく女性用だった内風呂に入る。一時間ほど浸かって外に出ても、しんかんとしたロビーには人の姿もなく、他の浴室は空いたままになっていた。貸し切り風呂の争奪戦を繰り広げた前回とは大違いだ。やはりこの宿には夫婦かカップルの四、五組くらいが相応しいのではないか。
たとえばこれが四人家族だと、四人全員が一度にひとつの浴室を使うはずもなく、二回に分けて、あるいは下手をすると一人ずつということもありえる。そうなると、他の宿泊客があぶれるのも仕方なく、畢竟、浴室の前に並んで苛々と先客が出てくるのを待つことになる。GoToトラベルのときは実際にこうだったというから、かりに自分が宿泊したときにこんな体験をしてしまえば、もう二度とそんな宿は訪れることはないと思う。
(続く)
[2022-02-04] 湯河原温泉(5) 伊藤屋・朝食編
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